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コンシャスカンパニー

画期的な圧縮アルゴリズムを武器に起業し、起訴やM&Aの荒波を乗り越え大企業に挑戦する6人の若者パイドパイパー社。シリコンバレーを舞台にしたコメディータッチのドラマで、名前もズバリ「シリコンバレー」。あまりにもリアルすぎると評判で、私も若い頃夢見たワクワク感が蘇りとても好きです。ネタバレなので書きませんが、シーズン4の最後に主人公が宿敵である巨大企業のCEOに言い放つセリフは必聴です。のっけからAmazonとは関係なさそうな書き出しで恐縮ですが、前回の続きであるAmazonとホールフーズを書きます。

勝手に想像する一つ目のストーリーは吸収です。アメリカでよく見られるM&Aはスピード感があり、システマチックに進む印象があります。買う側は買った会社を完全に吸収しプロセスに組み込んでしまいます。そして完了すると買われた側の経営者は莫大なお金を得て退職します。ペゾス氏はその発言からしてとても合理的な人です。ブルドーザのようにAmazonがホールフーズをプロセスの一つにまで分解し統合し店舗が物流拠点や受け渡し場所とすることでマーケットプレースの空いたピースである念願の生鮮がはまる構図です。先のドラマにもこのようなM&Aはふんだんに出てきます。いずれペゾス氏の謝辞とともにマッキー氏が退職すればこのケースになるかと思います。

もう一つは共生です。キーワードは前回ご紹介した本にある「コンシャスカンパニー」です。コンシャスとは意識が高いと言う意味で、条件としてステークホルダーとのウインウイン関係が必要だと書かれています。顧客、社員、サプライヤーと他の3つを加えウィンの6乗と訳されています。特に顧客、社員、サプライヤーを平等に扱う徹底ぶりは素晴らしいです。理想は分かるがいざ実現しようとなると極めて難しいと多くの企業が感じていることでしょう。給与の考え方一つを取ってもなるほどと思わせるマネージメントを行なっています。反面、よい企業文化が役に立つなどというのは幻想だという意見もあるでしょうが、それを実現し成功している数少ない会社の一つがホールフーズでありCEOのマッキー氏です。なんとなくイメージの違うペゾス氏とマッキー氏ですが、二人には大きな共通点があります。それは徹底した顧客志向です。

先のドラマで主人公とVCの女性がスーパーマーケットで買い物中、同じTシャツを着た人たちが忙しく商品をカートに入れています。ほとんどが買い物請負業者です。彼らを見て、技術力で起業するより、くだらなくてもビジネスモデルで起業すれば投資家の受けもよかったと言う主人公の嘆きのシーンです。

「顧客のニーズを大切にしろ。たとえ気づいていなくても」というペゾス氏の目指す未来は、顧客の潜在欲求に響くショッピング体験かもしれません。機械の領域と人間の領域を分け、買い物を楽しくお洒落にした心地よい世界を目指しているのかもしれません。第2幕ではホールフーズが築いた強い結びつきを持ったサプライチェーン全体をAmazonが持つ技術を使って最適化することは明らかです。しかし最適とは合理化だけの意味ではありません。生産、物流や購買に関わる全ての行為の合理化は当然とし、その上で人々が求めるものと求めないものを区別し、求めないものは再編され、ITやロボットが人々に代わり苦痛を取り除いてくれるでしょう。そして心地よさだけを残します。例えば先のドラマの買い物請負業者に求める行為そのものや、日用品の品揃えだけの商品も不要かもしれません。

時価総額はトヨタの三倍近くの50兆円を超え、驚くべき額を毎年投資する企業。そんな企業が見据える社会とは、生産者や消費者皆が最適な営みを美しく行える未来を見据えている気がします。そしてそれをすでに実現していた会社の一つがホールフーズだったと思います。人と人は簡単に共感できるとは思いません。だからM&Aはとても難しい選択だと思います。しかし提携だと利害が一致せず顧客志向にはなり難いと考えられます。未来のショッピングを作ろうとした場合、顧客の要求を察知し、ともに成長してきたサプライヤー、優秀な社員、店舗立地を既に確立したプロたちとどうしても一緒になりたかったのだと思います。どんな言葉で口説いたのでしょうね。Appleのジョブズ氏がスカリー氏を説得した砂糖水は有名ですが、もし私がペゾス氏なら口説き文句は「人々がまだ気づいていない新しいショッピングの世界を一緒に創らないか」でしょうか。浅いですね。すみません。

ここまでくると当然「反トラスト法」が気になりだします。しかしこの法律は企業の合併などで消費者に不利益になることを制しているため、Amazonのように常に利益を消費者に還元する、すなわち値下げするやりかたには及びません。AWSはなんと60回以上も値下げを繰り返しています。トランプ大統領がAmazonに向けた言葉で話題になった、ペゾス氏はワシントンポストの個人オーナーでもあることを利用しロビー活動に影響を与えていると。いやはや。恐るべし。