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企業の進化とサイエンス力(2)

前回の映画の暗号解読に使われたベイズの定理とは、確率で自然界の出来事を表わす法則です。
今のAI技術や統計解析を根幹で支えています。このベイズの定理、ビル・ゲイツ氏は「21世紀のマイクロソフトの基本戦略は、ベイズ・テクノロジー」とまで言ったそうです。1991年の一般的なインターネットもスマホもない時代、「ビル・ゲイツは、いつかコンピュータが人間のように見たり、聞いたり、理解できるようになるというビジョンを持っていました」4 。ベイズの定理は異端とされていた時代が長く、それでもその価値に気づきMicrosoftの戦略とまで言い放った感性は素晴らしいと感じます。
ちなみに、AI技術のバイブルの一つとされる本にPRML 5 があります。この著者のC.M.ビショップ氏はMicrosoft Research所属です。Google に押されているイメージはありますが、さすが世界を代表する雄な企業、20年も前に今を想像できていたのですね。余談ですがMicrosoftが手に入れた音声通話ソフトのSkypeは最近まで統計的アプローチをつかって同時翻訳ができていましたが、昨今ニューラルネットワークに変更し飛躍的に性能が伸びたそうです。時代ですね。

しかし、天才の登場を、指をくわえて待っていられません。やはり教育が重要となります。アメリカはオバマ政権時、特に重要な教育戦略にSTEMという言葉が使われました。この単語はサイエンス、テクノロジー、エンジニアリングと数学の頭文字をとった造語です。なぜ数学と思われますが、数学は全てと話せる共通言語です。STEMは企業にも通じるものがあります。
前回、サイエンス=社会目線、エンジニアリング=顧客目線、テクノロジー=技術目線と勝手に定義しました。そして「本質の理解」の難しさは前回の「モンティ・ホール問題」が感じさせてくれました。トリックとまでは言いませんが、このように人間は主観による勘違いが結構あります。やはりバランスの取れた知識を身につける必要があります。

前回から持ち越した進化に必要なもう一つの側面とは、サイエンスを認識し、それを聞き入れる勇気です。ベイズの定理に共通する二人の天才の逸話を例に出しましたが、この二人の後ろには、スティーブ・バルマー社長、イギリスにはチューリング氏の直訴を受けすぐに動いたウィンストン・チャーチル首相がいました 6 。せっかく進化耐性のついた体質が出来上がったとしても進化しようとする方向に動かなければ進化できません。あたりまえです。
繰り返しになりますが、何か仕事と遠い響きあるサイエンス力とわざわざ定義したのはそのカテゴリーを認め、そしてそれが重要なのだと認識するためです。大きな変化は必ずやってきます。でも予測しようとする意思さえあれば予測可能だと思います。
今までは変化の対象を顧客、技術だったところに社会を入れ、日頃からこの3つを考える習慣にしておけば、必ず予見できると思っています。そしてサイエンス力を企業の重要な位置づけにすることで進化できると考えます。大きな変化がおきた時、経営資源が潤沢にある企業は勝ち残れるでしょうがまだまだそんな贅沢な企業も少ないでしょう。実現方法は千差万別ですがコストをかけずとも変化耐性のある組織は作れると思います。

データ活用の時代と言われて久しいですが、まだまだ一般的には明確な方向性が見えない感じがします。まずは必要なことの認識にありますが、サイエンス力が高まれば必要なことも見え、もっと貪欲にデータが必要になると思います。今は成長を支える道具にITが使われています。しかし、いずれこのサイエンスがITの投資領域になるかもしれません。第2回に書きました「AIブーム」もその一つです。

当社の場合、社長の言葉に「時流を追うな、先読みし備えよ」があります。私はこのフレーズがとても好きです。また、この意味の深さを痛感させられています。三つの努力が必要です。今の私の理解は、今起こっている事の本質を正確に理解し、今後の変化を予測する。そしていずれ求められる事を創造し準備しておけと捉えています。いくつかの難しいキーワードがあります。「本質の理解」、「変化の予測」、「ニーズの創造」です。そして、その考えを経営における重要な要素と考える社長がいる事で当社の成長と進化が行われてきたと感じています。サイバーリンクスのフィロソフィーの一つがこの言葉に現れています。

 


4  Microsoft社のブログより
「パターン認識と機械学習」C.M.ビショップ 著
「異端の統計学 ベイズ」シャロン・バーチュ マグレイン 著