CIOブログ
2017年04月21日
「第2次世界大戦時、一人の天才が戦況を変えた」といえば驚かれるでしょうか。
2015年に公開された映画「イミテーション・ゲーム」の内容です。主人公は、かの有名なアラン・チューリング氏です。現在のコンピュータの創造者でもあり、チューリング・テストを提唱し人工知能の父とも言われています。
映画の中のドイツ側にはエニグマ暗号があり、マニアも楽しめたと思います。私も南アメリカへの出張の退屈な飛行機の中をこの映画のおかげで楽しめました。
歴史的な側面を要約すると、第2次世界大戦中、イギリス軍がドイツ軍の潜水艦に手をやき、敵の通信を傍受するも暗号化されておりお手上げでした。チューリングのチームは不可能と思われた暗号の解読に成功しますが、その事実を敵にばれないように戦う事で戦況を優位に進めドイツを降伏に追いやります。戦後30年間伏せられていた実話です。
さて、今回は企業の進化を題材にしたいと思います。
先日「International Open Data Day in Wakayama」での講演を依頼され、データ時代に企業がどう向き合えば良いかについて勝手な意見を述べさせて頂きました。その内容を元に書かせて頂きます。断っておきますが私は企業コンサルタントでもなければ、その知識も持ち合わせておりません。技術系の戯言と笑納ください。
よく「既成概念を捨て新しい発想を」と耳にします。できたら苦労はないですよね。
数年前にベストセラーになった「ZERO to ONE」1 をご存知でしょうか。日本語サブタイトルは「君はゼロから何を生み出せるか」と言うペイパルの創業者の本です。
進化を「0から1」に例え、「1から10」を成長に例えたいと思います。
私は、企業の成長にはエンジニアリングとテクノロジーが重要だと考えます。
ここでいうエンジニアリングとは、単に工学だけではなく定めた目標に向かって物事を実現する行為全般とし、テクノロジーはマーケティングなども含めた幅広い技術と考えて下さい。新しい企業や事業は創業メンバーの並々ならぬ努力や、素晴らしい着眼が結実し成功します。進化である0から1の誕生です。そして1から10の成長過程に移ります。エンジニアリングとテクノロジーが駆使され、販売力向上、生産力向上、品質改善、コスト削減等が進められます。
しかし問題があります。長く続けばビジネスは大成功ですが、反面長い時間をかけて成長するにつれ人も組織も変わります。10年もたてば成長を目的とした組織になっている事でしょう。成長を支えた人たちは賞賛に値しますが、「既成概念を捨て新しい発想を」と突然求めても現状の否定に聞こえてしまいます。寧ろモラールの低下の恐れもあります。
多くの企画会議を聞いていると、顧客、技術で議論されます。しかし進化が必要な新しい発想が求められる時には、創業者が持ち得ていた社会現象を鋭く把握する目線が抜けています。創業者精神の伝承は重要ですが、経験していないと肌で感じられません。進化に強い組織にするためには、常に社会現象を意識させる習慣付けが重要ではないでしょうか。人は習慣に支配されています。「習慣力の力」2
では社会現象把握力とは、独断と偏見でサイエンス力と定義したいと思います。
ここで言うサイエンスとは、社会や自然界で起こっている事を「正しく理解」する事です。世界が待ち望んだヒッグス粒子の発見やノーベル賞のブラックショールズ方程式などの、人類にとって大きな発見、発明だけの意味ではありません。
戦時に生まれたOR 3 が近いと思いましたがこれはツールです。
冒頭の映画では、エニグマ暗号の解読にベイズの定理が利用されました。近年注目を集めている確率法則です。
ここで確率のお遊びを一つ、「プレーヤーの前に閉じたドアが3つあり、1つのドアの後ろには車が、2つのドアの後ろにはヤギがいます。プレーヤーは車のドアを当てると車がもらえます。プレーヤーが1つのドアを選択した後、ドアの後ろを知っている司会者が残りのドアのうちヤギがいるドアを開けてヤギを見せます。ここでプレーヤーは、最初に選んだドアを変更してもよいと言いわれます。
プレーヤーはドアを変更すべきでしょうか?」有名なモンティ・ホール問題です。
「残った扉のどちらかに車があるのだから、どちらも確率は同じ1/2」と感じますが、答えを言うと変更すべきです。変えると勝率が2倍になります。
どうですか、直感とのズレを感じますか?複雑な社会現象を正しく理解する事はとても難しいと感じます。
第一回目に書きましたが、今「革命」と思われる大きな社会変化が訪れています。
まさに進化が求められているのではないでしょうか。
次回は、ベイズの定理で共通するもう一人の天才と、進化に必要なもう一つの側面に触れます。
1 「ZERO to ONE」 ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ 著
2 「習慣の力 The Power of Habit」 チャールズ・デュヒッグ 著
3 オペレーションズ・リサーチ
CIOブログ
2017年02月20日
AIブームです。
Gartner社のHype Cycle for Emerging Technologies, 2016 にもMachine Learningが期待の頂点にあります。今後はブームが去り、また冬の時代に向かうのでしょうか。そうは思いません。なぜなら、このブームの背景にあるAI技術が本物だからです。長年の研究成果をITの進化が実証し、その価値を市場が認めました。あと数年もすればAIという言葉は出なくなるかもしれませんが、多くの製品に応用され当たり前になっていることでしょう。
では今話題のAIとはいったい何なのでしょうか。
ITに限って言うなら、数理技術の機械学習領域のプログラムです。昨今、ディープラーニング(深層学習)が話題を呼び、一気にAI技術が注目されました。
ではそのAI技術はなぜ注目されているのでしょうか。
特に注目されたのは画像処理の性能です。例えば写真に写っている物体の認識です。ディープラーニングはこの物体の認識に人間に近いかそれ以上の性能を出しました。さらに驚きなのは、認識に必要な特徴を見つけるのに人によるプログラムではなく、多くのデータから自動で学習したことです。人間にできてコンピュータには難しかった大雑把に認識する力を得ました。この特徴を自動で見つける方法は映像、音声や文章だけにとどまらず、様々なデータに応用する事ができます。人間には見つけることの出来なかった、データが示す意味を見つける事もあります。今までコンピュータが踏み込んでいなかった分野に応用されブームとなっています。面白いですね。正確なはずのコンピュータが「多分」と答えるのですから。でもこれは、本当に大きな出来事です。さらにインターネットによる情報共有の速さや、実装の多くがOSS(オープンソースソフトウエア)で提供されている事が利用を後押ししています。
ただAIについて気持ち悪く感じられる方もおられるかもしれません。でも私たち人間は、空を飛ぶために鳥を作ったりはせず、似ても似つかぬ飛行機を作りました。それと同じで現在実用に向かっているAI技術は、脳を作っているのではなく、脳の機能の一部をITで模しているだけです。IA(知識増幅)やコグニティブ(認知)と表現する企業もあります。
長くなりましたが、当社の取り組みについて触れます。昨年、当社のデータセンタにスーパーコンピュータが加わりました。スパコンです!ただこのスパコン、今までと少し視点が違います。AI技術の中核であるディープラーニングはテンソル(多次元行列)計算がほとんどです。膨大なデータを高速に学習させるためには、行列演算に強いGPGPUがたくさん必要です。しかしディープラーニングはあまり高精度な演算は必要なく、スパコンで一般的な64ビットの倍精度より、16ビットの半精度でも十分な効果が得られるとされています。半精度でビット長が短くなった分、さらに高速に計算できるようチューニングされています。
当社のクラウドには、膨大なデータの蓄積と、それを扱う超高速な分散データベースや分析に強い分散メモリーシステムがあります。そこに今回このスパコンで超高速な行列演算機能が加わりました。これらを全て自分たちで構築しています。当社のような民間企業が単独でスパコンが買える時代になったと考えると驚きです。
これで当社はエンタープライズ領域でのビッグデータをも分析できる技術と設備が整いました。これを利用する具体的な話として昨年、和歌山県より「平成28年度先駆的産業技術研究開発支援事業」に採択されました。現在、当社の主力ビジネスである食品流通業界様向けの「人工知能(AI)を活用した流通向け自動発注システムの研究・開発」を進めています。
当社はクラウドサービスを提供する会社です。お客様の大切なデータをお預かりしております。ブームだからとかでAI技術に飛びついているのではありません。お客様にデータから新しい知見を得ていただかなければなりません。長年分析サービスを手がけていた事もそのためですし、投資もデータ分析に関わる分野に力を入れてきました。AI技術も当然この延長にあり、数年前から取り組みを開始しております。
日本は類稀なる労働力人口の急激な減少が進んでいます。多くの職場で人手不足は深刻です。よくAIは人から仕事を奪うと言われますが、現在のAI技術では人の持つ機能の一部を人間と同等かそれ以上に高めているだけです。しかし今後は人でしかできない仕事の一部を機械に行わせないと仕事が回らなくなる時代が来るかも知れません。
当社はより高度なITサービスを安価に提供することが使命だと考えています。これからも時代の変化を見据え、より良いサービスをいち早く提供できるよう新技術を取り入れ最新のサービスを提供してまいります。
CIOブログ
2016年12月15日
デジタル革命が起こっています。えらく物々しい響きですが、ITの潮流の一つです。何が革命なのでしょうか。
世界的にはUberが有名です。配車サービスですが、既存のビジネスモデルを覆し、大ヒットとなりました。スマートフォンで行き先をタップすると、現在地まで迎えに来てくれて目的地まで送ってくれます。支払いは事前登録のクレジットカードで自動的に支払います。目的地を説明する必要もなく、支払いのチップを気にする必要もありません。簡単で透明性がありとても便利です。私も海外出張時はよく利用します。単なるスマートフォンを使って運転手と乗客を直接結びつけた仲介業(マッチングビジネス)です。これが革命?と思われる方も多いと思いますが、今年の初めサンフランシスコ最大のタクシー会社が破産に追いこまれました。
タクシー事情が良い日本ではUberはあまり馴染みがないので、別の例を書きます。昨今、海外からの旅行者の急増により宿泊施設の不足が言われています。解決策の一つとして一般の民家に泊まる「民泊」という言葉をよく耳にします。その民泊で注目されるのがAirbnbという会社です。スマートフォンを利用して、空いている部屋を貸したい人が情報を提供し予約ができるサービスです。日本では来日する多くの外国人を中心に利用が広がっています。これも先ほどのUberと同じようなモデルで、宿泊を希望する人に空いている部屋を仲介するビジネスの一つに見えます。
今年世界最大のホテル企業になったマリオット・インターナショナルは世界中で110万室を持った業界のトップです。Airbnbは登録部屋数が約80万室で、なんとヒルトンやインターコンチネンタルと肩を並べています。しかし、ちょっと待ってください。なぜ仲介ビジネスと実業を比べるの?と言われそうです。
彼らのビジネスモデルは、利用者との入り口にスマートフォンを利用し、提供者と利用者を直接橋渡しし、お金の業務を代行します。そうです、彼らはホテル企業やタクシー会社を仲介していないのです。Airbnbは現在1,000億円ほどの売り上げがあるそうです。本来ホテル業界が得る可能性のあった収入が奪われたことは明らかです。Uberがタクシー業界から反発を受けたように、Airbnbも多くのホテル業界から反発を受けています。
見る角度を変えてみましょう。仮に、彼らが最初から「世界最大のタクシー会社になる」とか「世界最大のホテル企業になる」という戦略を持っていたとしたらどうでしょう。ビジネスモデルを考え、戦術をうまく遂行してきた結果としたら。例えば、ホテル企業になるにはホテルを建てることだと考えずに、宿泊サービスを提供することをシンプルに突き詰め、世界中で安く簡単に予約ができる宿泊サービスを目指していたとしたら。物から事の時代と言われる昨今、この考え方が革命の意味だと思います。
誰が革命を起こし、誰が攻め込まれるのか。ITを武器に他業界から既存の業界に踏み込んでくる構図です。最初は安かろう悪かろうのイメージがあるかもしれません。また、マーケットプレースや紹介サイトのように仲介業に見えるかもしれません。強敵とはとても思えません。ただ規制や常識にとらわれず、利用者目線で「事売り」で攻めてきます。昔読んだ本に「イノベーションのジレンマ」がありますが、その例にとてもよく似た構図です。
加えて、これらを実現するための技術は一般的なものが多く、ある程度の知識、スマートフォン、インターネット、クラウドコンピューティング等の開発知識があれば誰もが実現可能です。また開発、維持、運用コストが従来に比べ圧倒的に低く、荒っぽく言えばアイデア次第です。スマートフォンの普及率が示すように、現在人々はスマートフォンと言うコンピュータを持ち歩いています。さらにそれに頼りきっています。このことがデジタル革命を後押しし、今後も至る所で起こると思われます。
決して攻め込まれた業界が怠けていたわけではないと思います。しかしコンシューマとコンピュータが一体化したがために、顧客の要求がダイレクトに吸い上げられる時代への対応は急がなければならないと感じます。また逆に、これを一過性の現象と評する人もいますが、さてどのように時代は動くのでしょうか。
私は技術を担当しておりますが、今回はビジネスモデルの話になってしまいました。今、デジタル革命、デジタル・イノベーション、デジタル・ディスラプター、デジタル・トランスフォーメイション等、同じような言葉がよく使われています。ITの流れでとても大きな潮流の一つであるため初回の内容とさせていただきました。今後もできるだけ最近のITトレンドに加え、当社の取り組みに触れていきたいと思います。