店舗のコンセプトと分類体系
小売業には様々な形態があって、それぞれに俗称があります。
例えば、住居関連の消費財を中心に扱っていればホームセンター、医薬品や家庭用薬品類を中心に扱っていればドラッグストア、日常家庭で消費する食料品全般を中心に扱っていればスーパーマーケット、といった具合です。
しかし、例えば同じように食料品を取り扱うスーパーマーケットであっても、各企業それぞれに店の作り方、部門揃え、品揃えは異なります。経営者が異なるので、当然といえば当然ですね。
同業者の競争も激しくなり、各企業、自分たちの経営理念に沿ったターゲット顧客、店舗コンセプトを打ち出し、どういったものをどのように品揃えし提供してゆくか、創意工夫を凝らしています。そしてそれらが結果として差別化に繋がり、同じスーパーマーケットという業態でありながらも、他社店舗と自社店舗の優劣を決める重要なポイントとなっています。
では、自社のターゲット顧客にとって必要な品揃えとはどんなものでしょうか?
それを考える時に闇雲に商品をリストアップするのは無謀な行為です。例えばスーパーマーケットであれば、それこそ数万のアイテムの取り扱いを一つ一つ検討しなければならないのですから・・・もっと簡単に考えられるよう、まずは大きなところで、自社のコンセプトに合った部門という大きなグループをどのように揃えるか考え、ある程度固まったら、さらに部門をライン、クラス、といった具合で徐々にグループを小さくしながら最終的に商品揃えを決定する方法をとります(図:ツリー上になった分類体系、菓子部門の例)。
これが一般的な分類体系構築の考え方であろうと思います。店舗の品揃えは分類体系に沿って行われることになります。よって、企業や店舗のコンセプトが如実に表れるのが分類体系と言えるでしょう。分類体系の良し悪しが店舗の今後を決めると言って過言ではありません。なぜなら、分類体系は、お客様にコンセプトを伝える品揃えそのものの良し悪しを左右するだけでなく、企業の販売戦略も部門~分類ごとに構築されるものだからです。
また、分類はいったん決めればそれで終わりというものではありません。
世の中は常に変化しており、その都度、消費志向も変化してゆきます。例えば大きなところでいうと、ここ3、40年間程の間で、日本ではメインディッシュの魚の消費量が減少し肉の消費量が増加しました。
ということは、40年前に考えるべき分類体系と現在考えるべき分類体系は明らかに異なると想像することができます。当然、それぞれの部門で取るべき戦略も昔とは異なるはずです。「うちは創業数十年で~」という会社もおありかと思いますが、その間に何回、分類体系の見直しが行われましたか?全く手を入れていないという会社も多いのではないでしょうか。
分類体系は販売戦略立案の基本単位
もう少しわかりやすく、細かいカテゴリで考えてみましょう。
チョコレート菓子というカテゴリは大体どのスーパーマーケットでもお持ちのことでしょう。
ここ数年、チョコレートの消費性向には変化が見られます。今まではチョコレート=若者や子供向けのお菓子といったイメージでした。ところが、このところ、カカオがポリフェノールやカカオプロテインを豊富に含んだ健康食材であるということで、健康ブームに乗って今までチョコレートを買わなかった健康志向層までもが購入するようになりました。
この事実より、現在ではチョコレートについて若年層が好んで購買する理由と、健康志向層が好んで購買する理由には明確な違いがあるはずだ、と想像することができます。ということは、当然、販売に際する政策も同じではダメなはずです。若者に販売するような方法では健康志向層のお客様は買ってくれないでしょう。そして個別に手を打った場合は、政策の効果がどうであったかという検証も当然、必要となります。
この例でわかるように、検証に必要となる売上利益を集計するシステムは、打つべき戦略が異なるグループで商品分類されていることによって最大限の威力を発揮します。
そして、より消費者の目線で政策を実施するにあたってのポイントは、消費者の用途によって分類体系が組まれているかどうか、です。そして、用途は時代によって変化する、ということです。
ところが、チョコレートはチョコレート菓子と言う製品分類でしか分類できていない企業も実際には多いのです。どうでしょうか!?優劣は明らかではないでしょうか!?上記図はチョコレートの新たな用途を「高機能チョコ」として分類したイメージです。少なくともこの企業の菓子部門には、健康意識層向けチョコの品揃えに関して、欠落は無いでしょう。あなたの企業はいかがですか?
もちろん、時代の変化に応じて常に分類体系をメンテナンスするという作業は大変な労力がかかってしまい、現実的ではありません(行っている企業はありますが!)。よって、通常は、考え方をしっかりと頭に置きながらも、新たな用途分類に該当するような特定の単品をフォローアップして数値検証するなどの方法で対応が可能です。
分類体系見直しのタイミングは!?
分類体系を見直す最大のチャンスは、基幹システム導入のタイミングです!
基幹システムのセットアップには商品はもとより、分類の情報、部門の情報などあらゆるデータが必要となり、揃えなければなりません。その為、そのタイミングが一番効率的に作業を行える時でもあります。基幹システム導入は、企業コンセプトや店舗コンセプト、そして分類体系とそれに紐づく品揃えの再構築に最適なのです。
その他のタイミングとしては、新業態開発や大型新店、大型リニューアルの機会など品揃えそのものを検討するような際に、合わせて分類体系の見直しをおこなうと良いでしょう。
分類体系検討時のワンポイント
何もない状態で1から分類体系を検討するには大変な労力がかかってしまいます。その上、出来上がったものがうまく機能するとも限りません。もともと体系をお持ちの場合はそれをベースにしながら店舗コンセプトに沿って用途分類に置きなおしてゆくとスムーズです。
もし、無い場合や新たに刷新したい場合は、店舗コンセプトに近い企業の分類体系が手に入るならそれをベースに、手に入らなければ業界の標準的な分類体系を元に自社に合わせて置きなおしてゆくと効率的です。
分類体系構築の際の考え方はMECE(ミッシー:Mutually Exclusive Collectively Exhaustive)を参考にするとよいでしょう。
MECEとは、漏れなく、ダブりなくの意味で、問題を分類化して整理を行う際に利用する考え方です。
右図は「売上高を増やす」を考えた場合のMICE例です。まずは売上高を増やすためには客単価を上げる、客数を増やす。これには漏れもなく、ダブりもありません。それを繰り返してツリー状に問題を整理してゆくと図のようになります。
分類体系に関してもこれと同じで、漏れなく、ダブりなく、を意識しながら構築することで、網羅的に品揃えを考えることができます。
ただし、企業コンセプト、店舗コンセプトはそれぞれ企業の価値観や捉え方ですから、誰が考えても同じというものではありません。あるカテゴリを、どう顧客用途的に捉え、MICEにするかは自由であり、それが個性を発揮できる部分でもあるわけです。
企業・店舗のコンセプト実現のために
誰のため、何のためにどのような品揃えをして何を実現するのか、それは企業によって様々ですが、その実現のためには常にPDCAサイクルのC、検証が必要です。検証を実現するためには、戦略の評価が必要になりますが、小売業の場合、全体戦略を部門や分類に落とし込んで個別に戦略を立てる場合が多いことでしょう。分類体系が整備されて初めて検証が可能になるのであり、骨格そのものであるはずです。
ところが、弊社は31年間、様々な小売業を拝見して参りましたが、案外あまり深く考えず、流れのままであまり活用できていないという企業も多いのが実情です。
特に店舗の差別化には重要になりますので、システム導入の際には一度、分類体系の見直しを行われることをお勧めします!
【著者:株式会社エムアンドシー研究所 代表取締役 川久保 進一】
経営管理修士(MBA)、中小企業診断士、1級販売士登録講師【株式会社エムアンドシー研究所(http://www.mac-lab.co.jp/)】
平成元年設立。流通業、中でも主にスーパーマーケットの業務支援を中心に活動中。
@rms活用の各種セミナーや利益向上プログラムの企画・実施フォローを行っております。