第2回目は生鮮部門の「利益」コントロールについて事例を交えながらご紹介してゆきたいと思います。

●「利益管理」と「KKD(勘・経験・度胸)」
当たり前の事ですが、企業が永続的持続を行ってゆく上で重要なテーマとなるのは、営業上の「利益」をいかに管理するか!?という点にかかってきます。
多品種、多品目を取扱い、不特定多数の顧客を相手に商売を行う小売業にとって、その「利益」を正確に把握することは非常に難しい事です。

アームズ本部システムのような基幹システムがうまく処理をしてくれて、初めて正確な数字の把握が可能となりますが、それらをもし手作業で行わなければならないとしたら・・・今やある程度の規模以上の小売業では、基幹システム無しでは非効率すぎて成り立たない業界となっています。
今でこそコンピュータが当たり前の世界ですが、昔はそれこそどんぶり勘定しかできなかったことでしょう。

利益管理の難しい小売業の中にあって、特にその難易度が高いのが、食品を扱う小売業です。中でも生鮮食品は格別で、厳密な日々の利益管理を実施するにはシステムの手助けだけではなく、売場担当者の管理レベルも高度なものが求められます。

それゆえに、規模の小さな食品小売業(スーパーマーケット)では、どんぶり勘定とまでは行かないものの、棚卸までの間は、かなり大雑把に利益を判断せざるを得ない、という企業も多いのはないでしょうか。
だからこそ今までは、生鮮食品部門ではベテラン職人のKKD(勘・経験・度胸)が重要なファクターとなっていたわけです。

しかし、ここでよく考えてみなければなりません。
食品小売業(スーパーマーケット)における生鮮食品の売上割合は概ね50%前後と考えて良いと思います。利益率は生鮮食品の方が一般食品より高いため、利益の割合はもっと高くなります。

という事は、生鮮部門の利益管理が不十分な企業では、事実上、企業の生殺与奪は不確かなKKDに握られている!?と同義と言えなくもありません・・・

機械ではなく人が中心となる業務の中では、勘も経験も度胸も、もちろん重要な要素となります。
ただし、すべてが正しい方向に向かっている時は良いのですが、それが正しいかどうかを判断する為には「数値」が必須になってきます。

個人商店ならまだしも、会社組織を存続させ続けるには、数字に裏打ちされた行動が求められるからです。
また、管理に数値を積極的に用いる事によって、嬉しい副作用もあります。個人個人の能力はより高度なレベルに高められ、時には絶大な業績アップに繋がったり、個人のモチベーションの高まりや、仲間同士の信頼の醸成にも繋がってくるのです。

ゆえに、たとえ数値管理が難しい生鮮部門であっても、いや、難しい部門だからこそ「利益」を数値で管理することが、非常に重要なポイントなのです。

下記動画は、弊社支援スーパーマーケットのある店舗での店長と水産部門のチーフのミーティングの様子を収めた動画です。左側の水産チーフは入社3、4年目の女性社員です。
毎日、利益を確認し、上長と一緒に売場づくりを考える事で、社歴の古い他の水産ベテランチーフに引けを取らない実績を作っています。


「鮮魚部門チーフと店長のミーティング」

今後、業界では人材難が予想されますが、このように数値を武器とできれば、不足する勘と経験を補いながら、色々な可能性を広げることができます。

●現場での粗利益把握

利益と一口に言っても様々な種類がありますが、今回は特に現場で管理する事が求められる粗利益について考えてゆきたいと思います。
粗利益は通常、棚卸によって算出した売上原価と売上高との差で求めるものですが、簡易的に求める方法がいくつかあります。

アームズ基幹システムでは、売価と原価の登録されている商品に関しては、その商品の値引きロスを勘案して「みなし粗利」として参照することができます。
部門単位で単品の「みなし粗利」を積み上げ集計すれば、部門の「みなし粗利」として、今現在の利益を図る一つの目安として使うことができます。

もちろん通常の棚卸の利益も基幹システムで把握できますが、「みなし粗利」は棚卸の必要が無く、また、日単位で単品まで落とし込んで数値の把握ができると言う点が大きなメリットとなります。
第1回目では、その「みなし粗利」を活用した生鮮品以外の食品部門の粗利益管理について述べました。
※参照:https://cyberlinks-portal.com/utility/2016/12/26/105

ところが、メリットの大きいこの「みなし粗利」、生鮮部門ではほとんど利用する事ができません。
なぜなら、生鮮部門の商品には相場が存在し、日々原価が変動するため、世にある現状のシステムでは、必要となる単品の原価捕捉、入力メンテナンスコストがトータルで過大な負担となるため、中小規模クラスのスーパーマーケットでは実質、運用できないからです。

また、生鮮部門では別の大きな問題として、値引ロスや廃棄ロスなどのロス管理も粗利益に大きな影響を及ぼしてきます。

このように、生鮮部門の利益管理は、一回原価と売価を登録すればあとは機械が自動で計算してくれる一般食品部門とは異なり、色々な要素が絡み合うため、どうしても難易度が上がってしまいます。

これらのハードルをうまくクリアして、生鮮部門で日別、単品レベルでの利益管理を実現したいところです。

次回、【後編】ではアームズを活用し、簡単にそれ実現する手法をご紹介したいと思います。

 

【著者:株式会社エムアンドシー研究所 川久保 進一】
株式会社エムアンドシー研究所(http://www.mac-lab.co.jp/
平成元年設立。流通業、中でも主にスーパーマーケットの業務支援を中心に活動しています。
@rmsではシステム全体構想時からサイバーリンクス社と協力体制を構築しており、特に分析系ツールにおいては小売支援現場で培った様々なノウハウを提供しています。

本サイトにて小売支援企業、実際の小売現場において取組んだ様々なデータ活用に関する事例などを連載してゆきたいと思います。

時代はIT(information technology)から、ICT(Information and Communication Technology)と進化しています。
流通業界においても、情報は単に情報のままで済ますのではなく、具体的に活用し、さらにそれを繋げ、広げてゆく活動が求められています。

サイバーリンクスのクラウド型本部システム@rmsの分析ツールにおいて、導入したシステムをどのように活用しながら業績向上に繋げていったらよいのか!?
その手助けになれば幸いです。

第1回目は、クラウド型本部システム@rmsのオプション機能である「基本帳表作成ツール」と「MDツール」を活用し、加工食品部門や雑貨部門など、比較的在庫期間の長いドライグロッサリー部門で「データ活用」を実行し、売上・利益を向上するための手法について、実例を元に、順を追ってご紹介します。

なお、今回取り上げた店舗では、一年間で売上高30%アップ、粗利益率3.5%アップを実現しています。

「データ活用」と一口に言っても、人によって色々な捉え方があると思います。
「データ」=数値ですね。では、「活用」について皆様どのようなイメージをお持ちでしょうか。

情報系のシステムが社内に導入されていれば、とりあえずは、店舗、部門、単品の実績が確認できる事でしょう。毎日それらを確認しながら、悪いところを探して改善を実施している熱心な担当者の方もいらっしゃると思います。
数字を見ながら何かに気づき、次の行動に移す、まずはそれが「活用」の出発点です・・・が、さて、問題はその後です。
たまたまその時の改善できることはあっても、それが毎回のように継続することが難しく、長続きしないといったことも多いのではないでしょうか。
実にもったいない話です。
そこで、私共が支援するとある企業で、加工食品売場担当者の普段の何気ないデータの確認作業にひと工夫加えてみました。

そのひと工夫こそ「データの管理手法化」です!

文字だけでは何のことだかわかりにくいかもしれませんが、簡単に言うと、
「数値確認からの一連の流れをPDCAサイクルにしちゃいましょう!」
という事です。

今回の事例に限らず、「データ」を「活用」する成否は、言ってみればこのPDCAサイクルを如何に組み立てる事ができるか!?という事にかかってきます。
※PDCAサイクルとは、P=計画、D=実行、C=検証、A=行動を繰り返し行いながら実績や行動を「管理」する手法の事です。「管理」とくれば「PDCAを回す」が基本です!

さて、手順化の流れを実例で確認してゆきましょう。
<図1>

●現状分析
まずは現状の数値確認を行います。
今回の店舗(以下A店)の加工食品部門では、店別の売上高昨年比、および、粗利益率に着目しました。

【画面1:基本帳表作成ツール>月次実績推移表 売上高昨年比の例】

【画面2:MDツール>売上分析チェッカー 店別部門別みなし粗利率の例】

※上記はデモ画面のため架空の数値が入っています

実績の推移と店舗間比較によって、A店加工食品部門の売上高が昨年比70~80%と低迷し、同時に粗利益率も他店と比較して2~3ポイント低くなっていることを確認しました。
分析時点で、2年間ほど競合店対策を続けていたため、その影響が色濃く出ていました。

●改善策の立案
現状分析から、加工食品部門の売上と利益を改善してゆきたい、とわかったわけですが、その為にどのようなアプローチをしてゆくかを検討します。
売上を分解すると客数×客単価になりますが、今回は加工食品部門だけの取組なので、客数を増やすことは難しいため、客単価、さらにそれを分解して、特に販売数量の向上を狙うことにします。
利益の方は値入ミックスの考え方を組み込むことにします。
まず、商品を定番、低値入、高値入(高付加価値)の3つにグルーピングします。
この企業の加工食品部門では、定番商品や低値入の広告商品等は主にバイヤーの権限で品揃え、売価ともに決定されるため、その中でも、比較的自身で選択しやすい高値入の商品について販売強化を行うことにします。取組むことで、お客様への新たな提案も増え、お役に立てる場面も増えそうです。

改善策は、簡単に言ってしまうと「高付加価値商品を売り込む!」となりますが、その狙い所が明確になりました。狙い所の明確化は「管理」に必要不可欠です。

●計画要素とKPI(数値目標)の設定
PDCAを回すわけですから、P(計画)が無ければ話になりません。
売り込み計画に必要になる要素は大きく以下の3つです。

どこで誰に : 売場計画
→ 売場レイアウトからエンド、ステージを書き出し、月の前後半で大枠どんな売場を作るか計画する。 例:レジ前ステージ、前半:新商品フェア、後半:高付加価値売場 など

何をいくらで : 商品計画
→ 昨年の次月の売上:利益マトリクスABC分析から、売り込むべき単品を決定する

【画面3:MDツール>ABC分析チェッカー>カットアイテム抽出】

・どのように : 販促計画

→選択した商品にあわせて、販促手法を計画します。大量陳列、関連陳列、売場装飾、アナウンス・告知、販促物、コトPOP内容など

そして、PDCAのC(検証)に必要なKPI(数値目標)は、色々と試した結果、計画した高付加価値商品の売上構成比(10%以上)と粗利益率(28%以上)、この2つに絞り込みました。

<写真:計画して作成した売場の例>

●管理サイクルとチェックポイント設定
加工食品部門の特性にあわせ、KPI(数値目標)の検証期間は月単位に決定します。
ただし、途中経過は週単位で確認し、問題があれば単品レベルまで確認してゆきます。
ここで重要な点は、週単位の途中経過確認時点で目標達成に問題が生じていると判明した場合、商品の変更や売場の変更など、対策を積極的に行動に移すことです。
それこそがPDCAのA(行動)の部分となり、結果を左右する重要な要素になってきます。

●マニュアル化と横展開
うまく行ったら一連の流れをマニュアル化し、多店舗展開を狙います。
実際にマニュアル化したものをこちらに公開します。(高付加価値商品売込マニュアル

目標数値ややり方を改変すれば、様々な業態、部門で活用が可能だと思いますので、ぜひチャレンジしてみてください。

いかがでしたでしょうか。
これが実現できれば効果絶大です。
@rmsの分析ツール「基本帳表作成ツール・MDツール」は、情報を確認するだけでなく、活用するための必要な機能が誰でも簡単に利用できるクラウドシステムです。
ユーザー企業様では、パートの方から経営者まで、従業員みんなで使いこなし、活用して頂いております。

A店ではこの取り組みを一年間継続することで

【加工食品部門】
売上高昨年比 72% → 101%
粗利益率 15% → 18.5%
となりました。
そして、数値よりもなによりも、功績を上げることで担当者のモチベーションが向上し、それが波及して企業内がピリッとしてきました。そこから更なる取組に繋がることで、企業全体の士気や風土が向上することこそが最大の効果かもしれません。

さて、一度あなたの企業の加工食品部門に置き換えて計算してみてください。

加工食品売上高 × 3.5% = 粗利益高改善額
+企業風土の向上

早速はじめてみませんか!?

 

【著者:株式会社エムアンドシー研究所 川久保 進一】
株式会社エムアンドシー研究所(http://www.mac-lab.co.jp/
平成元年設立。流通業、中でも主にスーパーマーケットの業務支援を中心に活動しています。
@rmsではシステム全体構想時からサイバーリンクス社と協力体制を構築しており、特に分析系ツールにおいては小売支援現場で培った様々なノウハウを提供しています。