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企業の進化とサイエンス力(1)

「第2時世界大戦時、一人の天才が戦況を変えた」といえば驚かれるでしょうか。
2015年に公開された映画「イミテーション・ゲーム」の内容です。主人公は、かの有名なアラン・チューリング氏です。現在のコンピュータの創造者でもあり、チューリング・テストを提唱し人工知能の父とも言われています。
映画の中のドイツ側にはエニグマ暗号があり、マニアも楽しめたと思います。私も南アメリカへの出張の退屈な飛行機の中をこの映画のおかげで楽しめました。
歴史的な側面を要約すると、第2時世界大戦中、イギリス軍がドイツ軍の潜水艦に手をやき、敵の通信を傍受するも暗号化されておりお手上げでした。チューリングのチームは不可能と思われた暗号の解読に成功しますが、その事実を敵にばれないように戦う事で戦況を優位に進めドイツを降伏に追いやります。戦後30年間伏せられていた実話です。

さて、今回は企業の進化を題材にしたいと思います。
先日「International Open Data Day in Wakayama」での講演を依頼され、データ時代に企業がどう向き合えば良いかについて勝手な意見を述べさせて頂きました。その内容を元に書かせて頂きます。断っておきますが私は企業コンサルタントでもなければ、その知識も持ち合わせておりません。技術系の戯言と笑納ください。
よく「既成概念を捨て新しい発想を」と耳にします。できたら苦労はないですよね。
数年前にベストセラーになった「ZERO to ONE」1 をご存知でしょうか。日本語サブタイトルは「君はゼロから何を生み出せるか」と言うペイパルの創業者の本です。
進化を「0から1」に例え、「1から10」を成長に例えたいと思います。

私は、企業の成長にはエンジニアリングとテクノロジーが重要だと考えます。
ここでいうエンジニアリングとは、単に工学だけではなく定めた目標に向かって物事を実現する行為全般とし、テクノロジーはマーケティングなども含めた幅広い技術と考えて下さい。新しい企業や事業は創業メンバーの並々ならぬ努力や、素晴らしい着眼が結実し成功します。進化である0から1の誕生です。そして1から10の成長過程に移ります。エンジニアリングとテクノロジーが駆使され、販売力向上、生産力向上、品質改善、コスト削減等が進められます。
しかし問題があります。長く続けばビジネスは大成功ですが、反面長い時間をかけて成長するにつれ人も組織も変わります。10年もたてば成長を目的とした組織になっている事でしょう。成長を支えた人たちは賞賛に値しますが、「既成概念を捨て新しい発想を」と突然求めても現状の否定に聞こえてしまいます。寧ろモラールの低下の恐れもあります。
多くの企画会議を聞いていると、顧客、技術で議論されます。しかし進化が必要な新しい発想が求められる時には、創業者が持ち得ていた社会現象を鋭く把握する目線が抜けています。創業者精神の伝承は重要ですが、経験していなと肌で感じられません。進化に強い組織にするためには、常に社会現象を意識させる習慣付けが重要ではないでしょうか。人は習慣に支配されています。「習慣力の力」2

では社会現象把握力とは、独断と偏見でサイエンス力と定義したいと思います。
ここで言うサイエンスとは、社会や自然界で起こっている事を「正しく理解」する事です。世界が待ち望んだヒッグス粒子の発見やノーベル賞のブラックショールズ方程式などの、人類にとって大きな発見、発明だけの意味ではありません。
戦時に生まれたOR 3 が近いと思いましたがこれはツールです。

冒頭の映画では、エニグマ暗号の解読にベイズの定理が利用されました。近年注目を集めている確率法則です。
ここで確率のお遊びを一つ、「プレーヤーの前に閉じたドアが3つあり、1つのドアの後ろには車が、2つのドアの後ろにはヤギがいます。プレーヤーは車のドアを当てると車がもらえます。プレーヤーが1つのドアを選択した後、ドアの後ろを知っている司会者が残りのドアのうちヤギがいるドアを開けてヤギを見せます。ここでプレーヤーは、最初に選んだドアを変更してもよいと言いわれます。
プレーヤーはドアを変更すべきでしょうか?」有名なモンティ・ホール問題です。
「残った扉のどちらかに車があるのだから、どちらも確率は同じ1/2」と感じますが、答えを言うと変更すべきです。変えると勝率が2倍になります。
どうですか、直感とのズレを感じますか?複雑な社会現象を正しく理解する事はとても難しいと感じます。

第一回目に書きましたが、今「革命」と思われる大きな社会変化が訪れています。
まさに進化が求められているのではないでしょうか。
次回は、ベイズの定理で共通するもう一人の天才と、進化に必要なもう一つの側面に触れます。

 


1 「ZERO to ONE」 ピーター・ティール with ブレイク・マスターズ 著
2 「習慣の力 The Power of Habit」 チャールズ・デュヒッグ 著
3  オペレーションズ・リサーチ